さいこうの夜 神速一魂篇 Bルート
悩んだ末、ぼくは朱雀さんの言う通り、少しだけ外を見に行くことにした。
「ホントか!? くう~さすがプロデューさんだぜ!!」
「だが、危険だと感じたらすぐ戻るぞ」
「わかってるぜ、相棒!」
ぼくたちは上着を着込んで、吹雪の中へ足を踏み入れた。
肌に突き刺さるような寒さに、思わず表情が歪む。吹雪は思った以上に酷くなっており、視界も真っ白で、 何も見えなかった。
「朱雀! あまり先に行くなよ、3人で離れないように進むんだ!」
「おう! あ……おい、2人とも! あれ見てくれ!」
朱雀さんが何かを指差す。どうやら洞窟のようだ。
ぼくたちは様子を伺いながら、それに近づいた。
「奥まで続いてるみてぇだな!もしかしたら、吹雪で帰れなくなって、ここで休んでるんじゃねぇのか?」
「可能性はあるな。だが、態でも冬眠してたら厄介だぞ?」
「大丈夫だろ! にゃこだって平気そうだしよ! なぁ、にゃこ!」 「にゃー!」
朱雀さんの胸元に潜っていたにゃこが、元気よく返事をした。その反応を信じて、ぼくたちは洞窟の奥を確認してみることにした。
……それから数分。
ぼくたちは、未だに薄暗い洞窟の中を歩いている。退屈になってきたのか、朱雀さんが妙なことを言った。
「なんか、漫画とかでよくあるよな! トンネルを抜けたら、別の世界だった、みたいな」
「フッ、おもしれぇこと言うな。トンネル1つで別の世界に行けるなら、是非行ってみたいもんだ」
そんな風に、雑談しながら歩いて行くと……
「おお、外だぞ!?」
急に視界が開け、洞窟の出口に辿り着いた。いつの間にか吹雪も止んだようで、あたりは静寂に包まれていた。
と、そう思ったのも束の間。
「助けてくださいー!」
どこかで、聞き覚えのある声がした。
周囲を見回すと、少し遠くの方に、雪山に不釣り合いな典型的ヤンキーの集団が確認できた。どうやら、誰かを取り囲んで、カツアゲをしているらしい。
「いいからよこせよ!」
「うわーん! お金なんてありませんー!」
何やら聞き覚えのある声に、ぼくたちは目を凝らす。
ヤンキーたちが取り囲んでいた人物とは……。
「おい、玄武! ありゃあけんさんじゃねえのか!?」
「ああ、違いねぇ。助けるぞ、相棒!」
理由はわからないが、そこにいたのは賢君だった。ヤンキーたちに囲まれて、ブルブルと涙目で震えている。
ぼくも賢君と同じくらい恐怖でブルブル震えながら、勇ましく助けに行く神速一魂の後を追った。
「テメェらぁ! うちのけんさんに何してんだ、 あぁ!?」
朱雀さんがいつも以上の気迫でメンチを切った。
「悪いが、その人は俺たちのツレでな。さっさと返してもらおうか」
玄武さんも、ドスを効かせた声で相手を威圧している。
はずかしながら、あまりの迫力にぼくは逃げ出したくて堪らなかった。
「なんだテメェら!! どこ高だュラ!!!!」
「オレたちはオウケンだ! テメェらこそどこ高なんだよ!!」
雪山に突如出現したヤンキーたちとの言い争いは、どんどんヒートアップしている。そしてついに……。
「チッ、うるせぇ奴らだ! こうなりゃ拳で黙らせてやる!!」
ヤンキーの1人が、朱雀さんに向かって殴り掛かった!
危ない! 2人を守らないと!!
そう思った瞬間、神速一魂の2人がニヤリと笑った。
「おせえ!! 喰らいな、天空朱雀落とし・バーニンスペシャル!!!」
「こっちもあるぜ、天玄氷刃波・改!!」
……え!?
ぼくの頭の中に、たくさんのクエスチョンマークが現れる。
いつもあんなに、暴力はダメ! と言い聞かせているのに、どうして急に……!?
そう思っている間にも、2人の技がヤンキーたちをバタバタと倒して行く。そしてついに……
「ぐわぁぁあ!!?」
最後の1人が倒れた。傷だらけのヤンキーが、朱雀さんと玄武さんの方を見る。
「ま、まさかアンタたち……」
怯えるヤンキーに向かって、朱雀さんと玄武さんがニッと笑った。
「あぁ、オレたちは、漢の中の漢!!」
「力と頭脳で万物に平和をもたらす!」
「「ヤンキーヒーローアイドル、神速一魂だ! 夜露死苦!!」」
……
…………
「……カーーーット!!」
監督の一声で、ぼくはハッとした。
そうだ。ぼくたちは今、テレビドラマ『熱血!ヤンキーヒーローアイドル・神速一魂!!』の撮影をして いる最中だった。
ヤンキーアイドルである神速一魂が、悪を成敗するために裏でヒーローとして戦う特撮ドラマ。
いろいろな事情が重なり、ぼくと賢君がエキストラとして参加することになったのだ。
どうしてそんな重要なこと、忘れてしまっていたのだろう。それも、撮影の最中にだ。もしかしてこれが、役に入り込むということなのだろうか?
「番長さん、迫真の演技だったじゃねぇか」
「だよな! ちょっと怖がりなプロデューサーって役、バッチリこなしてたぜ!」
「おお、けんさんよぉ! いいカツアゲられっぷりだったぜ!」
「えへへ、本当ですか? うれしいです!」
「賢アニさん、そりゃ喜んでいいのか微妙なところじゃないのか?」
楽しそうに話している3人。
でも、何か大切なことを忘れているような……?
ぼくはふと、背後にある大きな洞窟を見つめた。
「どうしたんだ、番長さん」
「監督が呼んでるぞ! 早く行こうぜ!」
玄武さんと朱雀さんに声をかけられ、ぼくは慌ててみんなの元へ駆け寄った。
この感覚はなんなのか……。
拭いきれぬ違和感を抱えたぼくの背中を不思議な洞窟が見送っていた……。
終
「ホントか!? くう~さすがプロデューさんだぜ!!」
「だが、危険だと感じたらすぐ戻るぞ」
「わかってるぜ、相棒!」
ぼくたちは上着を着込んで、吹雪の中へ足を踏み入れた。
肌に突き刺さるような寒さに、思わず表情が歪む。吹雪は思った以上に酷くなっており、視界も真っ白で、 何も見えなかった。
「朱雀! あまり先に行くなよ、3人で離れないように進むんだ!」
「おう! あ……おい、2人とも! あれ見てくれ!」
朱雀さんが何かを指差す。どうやら洞窟のようだ。
ぼくたちは様子を伺いながら、それに近づいた。
「奥まで続いてるみてぇだな!もしかしたら、吹雪で帰れなくなって、ここで休んでるんじゃねぇのか?」
「可能性はあるな。だが、態でも冬眠してたら厄介だぞ?」
「大丈夫だろ! にゃこだって平気そうだしよ! なぁ、にゃこ!」 「にゃー!」
朱雀さんの胸元に潜っていたにゃこが、元気よく返事をした。その反応を信じて、ぼくたちは洞窟の奥を確認してみることにした。
……それから数分。
ぼくたちは、未だに薄暗い洞窟の中を歩いている。退屈になってきたのか、朱雀さんが妙なことを言った。
「なんか、漫画とかでよくあるよな! トンネルを抜けたら、別の世界だった、みたいな」
「フッ、おもしれぇこと言うな。トンネル1つで別の世界に行けるなら、是非行ってみたいもんだ」
そんな風に、雑談しながら歩いて行くと……
「おお、外だぞ!?」
急に視界が開け、洞窟の出口に辿り着いた。いつの間にか吹雪も止んだようで、あたりは静寂に包まれていた。
と、そう思ったのも束の間。
「助けてくださいー!」
どこかで、聞き覚えのある声がした。
周囲を見回すと、少し遠くの方に、雪山に不釣り合いな典型的ヤンキーの集団が確認できた。どうやら、誰かを取り囲んで、カツアゲをしているらしい。
「いいからよこせよ!」
「うわーん! お金なんてありませんー!」
何やら聞き覚えのある声に、ぼくたちは目を凝らす。
ヤンキーたちが取り囲んでいた人物とは……。
「おい、玄武! ありゃあけんさんじゃねえのか!?」
「ああ、違いねぇ。助けるぞ、相棒!」
理由はわからないが、そこにいたのは賢君だった。ヤンキーたちに囲まれて、ブルブルと涙目で震えている。
ぼくも賢君と同じくらい恐怖でブルブル震えながら、勇ましく助けに行く神速一魂の後を追った。
「テメェらぁ! うちのけんさんに何してんだ、 あぁ!?」
朱雀さんがいつも以上の気迫でメンチを切った。
「悪いが、その人は俺たちのツレでな。さっさと返してもらおうか」
玄武さんも、ドスを効かせた声で相手を威圧している。
はずかしながら、あまりの迫力にぼくは逃げ出したくて堪らなかった。
「なんだテメェら!! どこ高だュラ!!!!」
「オレたちはオウケンだ! テメェらこそどこ高なんだよ!!」
雪山に突如出現したヤンキーたちとの言い争いは、どんどんヒートアップしている。そしてついに……。
「チッ、うるせぇ奴らだ! こうなりゃ拳で黙らせてやる!!」
ヤンキーの1人が、朱雀さんに向かって殴り掛かった!
危ない! 2人を守らないと!!
そう思った瞬間、神速一魂の2人がニヤリと笑った。
「おせえ!! 喰らいな、天空朱雀落とし・バーニンスペシャル!!!」
「こっちもあるぜ、天玄氷刃波・改!!」
……え!?
ぼくの頭の中に、たくさんのクエスチョンマークが現れる。
いつもあんなに、暴力はダメ! と言い聞かせているのに、どうして急に……!?
そう思っている間にも、2人の技がヤンキーたちをバタバタと倒して行く。そしてついに……
「ぐわぁぁあ!!?」
最後の1人が倒れた。傷だらけのヤンキーが、朱雀さんと玄武さんの方を見る。
「ま、まさかアンタたち……」
怯えるヤンキーに向かって、朱雀さんと玄武さんがニッと笑った。
「あぁ、オレたちは、漢の中の漢!!」
「力と頭脳で万物に平和をもたらす!」
「「ヤンキーヒーローアイドル、神速一魂だ! 夜露死苦!!」」
……
…………
「……カーーーット!!」
監督の一声で、ぼくはハッとした。
そうだ。ぼくたちは今、テレビドラマ『熱血!ヤンキーヒーローアイドル・神速一魂!!』の撮影をして いる最中だった。
ヤンキーアイドルである神速一魂が、悪を成敗するために裏でヒーローとして戦う特撮ドラマ。
いろいろな事情が重なり、ぼくと賢君がエキストラとして参加することになったのだ。
どうしてそんな重要なこと、忘れてしまっていたのだろう。それも、撮影の最中にだ。もしかしてこれが、役に入り込むということなのだろうか?
「番長さん、迫真の演技だったじゃねぇか」
「だよな! ちょっと怖がりなプロデューサーって役、バッチリこなしてたぜ!」
「おお、けんさんよぉ! いいカツアゲられっぷりだったぜ!」
「えへへ、本当ですか? うれしいです!」
「賢アニさん、そりゃ喜んでいいのか微妙なところじゃないのか?」
楽しそうに話している3人。
でも、何か大切なことを忘れているような……?
ぼくはふと、背後にある大きな洞窟を見つめた。
「どうしたんだ、番長さん」
「監督が呼んでるぞ! 早く行こうぜ!」
玄武さんと朱雀さんに声をかけられ、ぼくは慌ててみんなの元へ駆け寄った。
この感覚はなんなのか……。
拭いきれぬ違和感を抱えたぼくの背中を不思議な洞窟が見送っていた……。
終