さいこうの夜 Café Parade篇 Bルート
次の瞬間、ぼくはシャベルを手に取っていた。
この地下室に来てから、どんどんと体温が下がっていることに気がついていたからだ。
もしも賢君がこの奥にいて、向こうも同じように寒かったなら、体調を崩すかもしれない。
同じ事務所の仲間として、助けない訳にはいかなかった。
「プロデューサーさん、まさか掘る気ですか?」
東雲さんが、驚いた顔でこちらを見ている。
確かに異常な行動かもしれないが、ことは刻一刻を争う。
迷っている暇はなかった。
すると、
「あたしも手伝うよ!」
そこには、シャベルを持った、咲、巻緒、アスラン、神谷さんが立っていた。
「1人でやるより、みんなでやった方が早いだろ? な、東雲」
その言葉に、東雲さんは苦笑する。
「仕方ありませんね」
シャベルを持ったぼくたち6人は、一斉に地面を掘り始めた。
……それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
すぐに向こう側へ抜けられると思っていた。
だが、どうやらそれは間違いだったようだ。
掘っても掘っても、土が見えるばかりで、向こう側に出ることができない。
「か、神谷さん。どこまで掘ればいいんでしょう? 俺たち、さすがにもう疲れて……」
みんなの気持ちを代弁するように、巻緒が先頭を行く神谷さんへ声をかけた。
しかし、真剣な神谷さんは「きっともう少しだ」と言うばかりで、手を休めようとしない。
心配になったぼくと東雲さんも声をかけようとした時、ふと頭の中である不安がよぎった。
神谷さんが、先頭……?
ぼくと東雲さんは、ハッとして目を合わせる。
まさか。もしかして。
恐らく、ぼくと同じことを考えていた東雲さんが、急いで神谷さんの肩を掴む。
「神谷! ちょっと待ちなさ……」
「見えたぞ! 光だ!!」
東雲さんの言葉を遮って、神谷さんが叫んだ。
暗かったトンネルの中に、眩しい陽の光が差し込み、ぼくたちは思わず目を細める。
同時に、暖かい、いや、どちらかというとムッとするような熱い空気と、賑やかな音楽が流れ込んできた。
トンネルから這い出したぼくたちが目にしたのは……
そこは、メキシコだった。
眩しい太陽と、マリアッチが奏でる陽気な音楽。
至る所から聞こえる、異国の言葉。
神谷さんが先頭になって穴を掘っていたぼくたちは、気づかぬうちに地中で迷子になっていたのだ。
そしてついにたどり着いた。
日本から遠く離れたこの土地、メキシコへ……。
「あれ? ここはどこだろう?」
爽やかに首をかしげる神谷さんの後ろで、ぼくたちは戸惑いを隠せなかった。
だが、これはほんの序章だったのだ。
この時のぼくたちは、何も気づいていなかった。
静かに忍び寄る、追いはぎの影に……。
終
この地下室に来てから、どんどんと体温が下がっていることに気がついていたからだ。
もしも賢君がこの奥にいて、向こうも同じように寒かったなら、体調を崩すかもしれない。
同じ事務所の仲間として、助けない訳にはいかなかった。
「プロデューサーさん、まさか掘る気ですか?」
東雲さんが、驚いた顔でこちらを見ている。
確かに異常な行動かもしれないが、ことは刻一刻を争う。
迷っている暇はなかった。
すると、
「あたしも手伝うよ!」
そこには、シャベルを持った、咲、巻緒、アスラン、神谷さんが立っていた。
「1人でやるより、みんなでやった方が早いだろ? な、東雲」
その言葉に、東雲さんは苦笑する。
「仕方ありませんね」
シャベルを持ったぼくたち6人は、一斉に地面を掘り始めた。
……それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
すぐに向こう側へ抜けられると思っていた。
だが、どうやらそれは間違いだったようだ。
掘っても掘っても、土が見えるばかりで、向こう側に出ることができない。
「か、神谷さん。どこまで掘ればいいんでしょう? 俺たち、さすがにもう疲れて……」
みんなの気持ちを代弁するように、巻緒が先頭を行く神谷さんへ声をかけた。
しかし、真剣な神谷さんは「きっともう少しだ」と言うばかりで、手を休めようとしない。
心配になったぼくと東雲さんも声をかけようとした時、ふと頭の中である不安がよぎった。
神谷さんが、先頭……?
ぼくと東雲さんは、ハッとして目を合わせる。
まさか。もしかして。
恐らく、ぼくと同じことを考えていた東雲さんが、急いで神谷さんの肩を掴む。
「神谷! ちょっと待ちなさ……」
「見えたぞ! 光だ!!」
東雲さんの言葉を遮って、神谷さんが叫んだ。
暗かったトンネルの中に、眩しい陽の光が差し込み、ぼくたちは思わず目を細める。
同時に、暖かい、いや、どちらかというとムッとするような熱い空気と、賑やかな音楽が流れ込んできた。
トンネルから這い出したぼくたちが目にしたのは……
そこは、メキシコだった。
眩しい太陽と、マリアッチが奏でる陽気な音楽。
至る所から聞こえる、異国の言葉。
神谷さんが先頭になって穴を掘っていたぼくたちは、気づかぬうちに地中で迷子になっていたのだ。
そしてついにたどり着いた。
日本から遠く離れたこの土地、メキシコへ……。
「あれ? ここはどこだろう?」
爽やかに首をかしげる神谷さんの後ろで、ぼくたちは戸惑いを隠せなかった。
だが、これはほんの序章だったのだ。
この時のぼくたちは、何も気づいていなかった。
静かに忍び寄る、追いはぎの影に……。
終