さいこうの夜 DRAMATIC STARS篇 Bルート
「入る度にマップが変わるというあの伝説の……不思議のペンション!」
「……何を言っている?」
ぼくの呟きに、桜庭さんは怪訝そうな顔をした。
一見普通のペンションに見えるが、地下へ入ると様々なモンスターやギミックが現れる。しかし、それを乗り越えると宝を獲得することができるという……。
ぼくは、昔どこかで聞いた不思議のペンションの話をした。
「……もしかしたら賢くんは、間違えてここに迷い込んでしまったのかもしれませんね」
「ああ。あまり考えたくはないが……可能性がゼロとは言い切れない」
最初は『不思議のペンション』の存在を疑っていた桜庭さんも、話をしていくうちに納得し始めたようだ。
「となると……答えは1つしかないよな!」
天道さんの言葉に、ぼくはうなずく。
ぼくたちは、地下へ続く道を歩き出した。
Floor B1
階段を下りると、冷気がぼく達に襲いかかって来る。
湿り気を帯びた、気持ちの悪い冷気だ。
「これは……やはり、帰った方がいいんじゃないか」
桜庭さんは、辺りを警戒している。
「何言ってるんだよ! まだ地下1階だぜ?」
「そうですよ、薫さん。もう少し進んでみてから……」
柏木さんがそう言いかけた時だった。
敵が現れた!
何やら怪しい男のようだ!
実に奇々怪々な動きをしていて、見るからに不審者としかいいようのない男だ。
「プロデューサー!? お、おい……!」
天道さんの声が聞こえたような気がしたが、気づけばぼくは走り出していた。
ぼくはプロデューサーだ。
彼らに一番星を掴んでもらうために、今ここにいる。
そのためだったら、なんだってできる……!
ぼくは、謎の人物の前に立ちはだかった。
相手は微動だにせず、こちらを見つめている。
いざ近くまで行ってみると、途端に恐怖心が芽生え始めてきた。
「あんたを1人にはさせないぜ」
突然の声に驚いて振り向くと、天道さん……そして、その後ろに桜庭さんと柏木さんが立っているではないか。
「みんなを守ってこそのヒーローだろ? 今こそ、この六法全書を使う時だな!」
「……僕も、戦えないわけではない。このメスがあるからな」
「もし攻撃を受けても大丈夫です。オレのこの翼で、みんなを守ります!」
天道さんは六法全書、桜庭さんはメスを手に持ち……柏木さんの背後には、大きな翼が見えた。
いつそのような装備品を用意したのだろうか。
しかし、そんな疑問はすぐに消え去った。
なぜならこちらを見据える彼らの姿が、出会った頃よりもずっと頼もしく見えたからだ。
自慢のアイドルたちと共に、ぼくたちは目の前の敵へと向き合った。
すると、怪しげな人物は突然高笑いを始めた。
「ハーッハッハ! 君たちの絆、とくと拝見した!」
「なっ……こいつ、喋れるのか!?」
天道さんが、ぼくの心の声を代弁してくれた。
「話の都合上、仕方ないのだ。それよりも、諸君! 私はこのダンジョンのラストボス……ラスボスだ。よくぞ最後のステージまでやってきてくれたな!」
その言葉に、一瞬沈黙が訪れる。
「あれ? まだ地下1階でしたよね、俺たち」
「……柏木、不用意な発言は控えろ」
桜庭さんの静止のおかげで、柏木さんの声はこの謎の人物には届いていないようだった。
「最後のステージのミッションは『絆』だった。君たち4人の絆は、非常に素晴らしいものだった! ブラボー!」
非常に嬉しそうな様子で、ラスボスを名乗る人物は、ぼくたちに拍手を贈る。
「そんな君たちに、私からクリア報酬を授けたい」
ラスボスが指をパチンと鳴らすと、米俵のようなものが目の前に現れた。
「こ、これって、もしかして……!」
「ああ。見たままの通り、米だ」
「わあ……! 輝さん、薫さん、お米ですよ!」
柏木さんは、笑顔で米俵の元へと駆け出す。
なぜ、クリア報酬が米なのか。
詳しく聞くと、彼はこのダンジョンのラスボスでもあるが『米の一族の末裔』でもあるらしい。
中身は本当に正真正銘の米のようで、ぼくはなぜか、やけに腑に落ちてしまった。
「では、さらばだ! その米は、ショプールの秘密のワインと共に調理をするのがオススメだぞ!」
ラスボスは、黒いマントを翻す。
「お、おい! ……って、もういないのかよ」
天道さんが、驚いた表情をして虚空を見つめる。
何もせずして、ラスボスとの戦いは終わってしまったようだ。
「そのようだな。最後の言葉の意味がよくわからなかったが……ん?」
突然、体に力がみなぎってくる感覚を覚える。
経験値を得た!
レベルが315に上がった!
「……何やらレベルが上がったようだな」
桜庭さんの言葉にぼくはうなずく。一方、柏木さんは桜庭さんの言葉にうなずきつつも、米俵を満足そうに見つめていた。
「そうみたいですね。お米と経験値をくれるなんて……あの人、本当にラスボスだったんですね!」
ラスボスだと言い切るには根拠があまりにも足りないような気がしたが、否定する要素もなかったので、ぼくは黙って再びうなずくことにした。
「ははっ。ダンジョンをクリアしたんだったら、もっと強そうな剣とかが欲しかったけど……翼も嬉しそうだし、これはこれでありかもな!」
「ふん……まあ、剣よりかは米の方が実用性があるだろう。それよりも」
静まり返った地下で、桜庭さんはそのまま言葉を続ける。
「ここでのレベルは上がったようだが、トップアイドルという観点から見たら、僕たちはまだまだだ。浮かれている場合ではない」
「薫さん……はい! オレ、この3人でトップアイドルになれるように……これからも頑張ります!」
「ああ! 一番星目指して、これからもアイドルとしてレベルアップしていこうぜ!」
桜庭さんの言葉に、柏木さんと天道さんは笑顔で答えた。
米俵を前にうなずきあうDRAMATIC STARSの3人を見て、目頭が熱くなる。
何か大事なことを忘れているような気がするが、一旦は置いておくことにした。
そう、ぼくはプロデューサーなのだ。
彼らにより輝いてもらうためにも、もっと頑張ろう……ぼくもひっそりと、胸中で堅い決意をしたのだった。
終
「……何を言っている?」
ぼくの呟きに、桜庭さんは怪訝そうな顔をした。
一見普通のペンションに見えるが、地下へ入ると様々なモンスターやギミックが現れる。しかし、それを乗り越えると宝を獲得することができるという……。
ぼくは、昔どこかで聞いた不思議のペンションの話をした。
「……もしかしたら賢くんは、間違えてここに迷い込んでしまったのかもしれませんね」
「ああ。あまり考えたくはないが……可能性がゼロとは言い切れない」
最初は『不思議のペンション』の存在を疑っていた桜庭さんも、話をしていくうちに納得し始めたようだ。
「となると……答えは1つしかないよな!」
天道さんの言葉に、ぼくはうなずく。
ぼくたちは、地下へ続く道を歩き出した。
Floor B1
階段を下りると、冷気がぼく達に襲いかかって来る。
湿り気を帯びた、気持ちの悪い冷気だ。
「これは……やはり、帰った方がいいんじゃないか」
桜庭さんは、辺りを警戒している。
「何言ってるんだよ! まだ地下1階だぜ?」
「そうですよ、薫さん。もう少し進んでみてから……」
柏木さんがそう言いかけた時だった。
敵が現れた!
何やら怪しい男のようだ!
実に奇々怪々な動きをしていて、見るからに不審者としかいいようのない男だ。
「プロデューサー!? お、おい……!」
天道さんの声が聞こえたような気がしたが、気づけばぼくは走り出していた。
ぼくはプロデューサーだ。
彼らに一番星を掴んでもらうために、今ここにいる。
そのためだったら、なんだってできる……!
ぼくは、謎の人物の前に立ちはだかった。
相手は微動だにせず、こちらを見つめている。
いざ近くまで行ってみると、途端に恐怖心が芽生え始めてきた。
「あんたを1人にはさせないぜ」
突然の声に驚いて振り向くと、天道さん……そして、その後ろに桜庭さんと柏木さんが立っているではないか。
「みんなを守ってこそのヒーローだろ? 今こそ、この六法全書を使う時だな!」
「……僕も、戦えないわけではない。このメスがあるからな」
「もし攻撃を受けても大丈夫です。オレのこの翼で、みんなを守ります!」
天道さんは六法全書、桜庭さんはメスを手に持ち……柏木さんの背後には、大きな翼が見えた。
いつそのような装備品を用意したのだろうか。
しかし、そんな疑問はすぐに消え去った。
なぜならこちらを見据える彼らの姿が、出会った頃よりもずっと頼もしく見えたからだ。
自慢のアイドルたちと共に、ぼくたちは目の前の敵へと向き合った。
すると、怪しげな人物は突然高笑いを始めた。
「ハーッハッハ! 君たちの絆、とくと拝見した!」
「なっ……こいつ、喋れるのか!?」
天道さんが、ぼくの心の声を代弁してくれた。
「話の都合上、仕方ないのだ。それよりも、諸君! 私はこのダンジョンのラストボス……ラスボスだ。よくぞ最後のステージまでやってきてくれたな!」
その言葉に、一瞬沈黙が訪れる。
「あれ? まだ地下1階でしたよね、俺たち」
「……柏木、不用意な発言は控えろ」
桜庭さんの静止のおかげで、柏木さんの声はこの謎の人物には届いていないようだった。
「最後のステージのミッションは『絆』だった。君たち4人の絆は、非常に素晴らしいものだった! ブラボー!」
非常に嬉しそうな様子で、ラスボスを名乗る人物は、ぼくたちに拍手を贈る。
「そんな君たちに、私からクリア報酬を授けたい」
ラスボスが指をパチンと鳴らすと、米俵のようなものが目の前に現れた。
「こ、これって、もしかして……!」
「ああ。見たままの通り、米だ」
「わあ……! 輝さん、薫さん、お米ですよ!」
柏木さんは、笑顔で米俵の元へと駆け出す。
なぜ、クリア報酬が米なのか。
詳しく聞くと、彼はこのダンジョンのラスボスでもあるが『米の一族の末裔』でもあるらしい。
中身は本当に正真正銘の米のようで、ぼくはなぜか、やけに腑に落ちてしまった。
「では、さらばだ! その米は、ショプールの秘密のワインと共に調理をするのがオススメだぞ!」
ラスボスは、黒いマントを翻す。
「お、おい! ……って、もういないのかよ」
天道さんが、驚いた表情をして虚空を見つめる。
何もせずして、ラスボスとの戦いは終わってしまったようだ。
「そのようだな。最後の言葉の意味がよくわからなかったが……ん?」
突然、体に力がみなぎってくる感覚を覚える。
経験値を得た!
レベルが315に上がった!
「……何やらレベルが上がったようだな」
桜庭さんの言葉にぼくはうなずく。一方、柏木さんは桜庭さんの言葉にうなずきつつも、米俵を満足そうに見つめていた。
「そうみたいですね。お米と経験値をくれるなんて……あの人、本当にラスボスだったんですね!」
ラスボスだと言い切るには根拠があまりにも足りないような気がしたが、否定する要素もなかったので、ぼくは黙って再びうなずくことにした。
「ははっ。ダンジョンをクリアしたんだったら、もっと強そうな剣とかが欲しかったけど……翼も嬉しそうだし、これはこれでありかもな!」
「ふん……まあ、剣よりかは米の方が実用性があるだろう。それよりも」
静まり返った地下で、桜庭さんはそのまま言葉を続ける。
「ここでのレベルは上がったようだが、トップアイドルという観点から見たら、僕たちはまだまだだ。浮かれている場合ではない」
「薫さん……はい! オレ、この3人でトップアイドルになれるように……これからも頑張ります!」
「ああ! 一番星目指して、これからもアイドルとしてレベルアップしていこうぜ!」
桜庭さんの言葉に、柏木さんと天道さんは笑顔で答えた。
米俵を前にうなずきあうDRAMATIC STARSの3人を見て、目頭が熱くなる。
何か大事なことを忘れているような気がするが、一旦は置いておくことにした。
そう、ぼくはプロデューサーなのだ。
彼らにより輝いてもらうためにも、もっと頑張ろう……ぼくもひっそりと、胸中で堅い決意をしたのだった。
終