さいこうの夜 S.E.M篇 Bルート
ぼくは膝をついてベッドの下を覗き込んだ。
ほの暗いその奥には、皿形の置物らしき物が見えた。
手を伸ばしてそれを取ろうとした瞬間、突然、ぼくの真横を何かが横切り、置物を掴むと窓の外へ投げてしまった。
「何か、あった? プロデューサーちゃん」
舞田さんの声が聞こえたが、ぼく自身、今、一体何が起きたのかわからない。
しかし、あの形には見覚えがあった。
あれは皿ではない。
ああ、そうだ。
この形は、確か昔読んだ超常現象の本に載っていた。
光を放ちながら飛ぶ、謎の飛行物体……。
そう……名前は……。
……UFO……。
「あーあ、ついに見つかっちゃったね」
ふいに、山下さんのいつもよりワントーン低い声が耳の近くで聞こえ、ぼくは言い知れない恐怖を感じた。
ベッドの下から視線をS.E.Mに向けてみる。
3人はアイドル衣装によく似た服に身を包んでいたが、よくみると頭から謎の触覚が出ている。
「正体がバレちゃったなら、もう仕方ないよね。……ワレワレハ、宇宙人スパイ……ナノダ……」
宇宙人スパイ……?
賢君がいなくなって大変な時に、舞田さんは何を言っているんだろう……。
縁日で売っているようなカチューシャをつけて。
声にビブラートつけて、まるでコントのように……。
だが、ぼくはその時、気がついた。
……舞田さんが、英語を使っていないことに!
「ワレワレハ、アル星ノ諜報機関ノ仕事デ、地球ヲ監視シテイルノダ」
「君タチ地球人ニトッテハ、侵略者ッテコトダネェ」
あああ、なぜか硲さんと山下さんも、なんか片言の喋り方になっている……。
いや、それよりも、硲さん、舞田さん、山下さんが、 宇宙人で侵略者? そしてスパイ?
信じられない現状にパニックになりながらも、頭の片隅でどこか冷静に行方不明になった賢君を心配していた。もしかしたら賢君は地球人サンプルとして、彼らに連行されたのかもしれない。
最悪の展開が頭から離れない
その様子を見ていた硲さんが、まるでぼくの考えていたことが聞こえたかのように話しかける。
「山村君は地球の情報を提供する諜報員。我々の仲間だ」
なんてことだ。
硲さん、舞田さん、山下さんだけでなく、賢君すら宇宙人でスパイだったなんて。
こんなひどい話はあるか。
ひどい冗談だ。
ひどくできの悪い冗談だ。
全身をどっと疲労感が襲った……。
ぼくは放心状態で、その場に座り込んでしまった。
彼らはいつの間にか取り出したメタリックカラーのギラギラした光線銃を、ぼくに向けて構えている。
「ちょっと記憶を消すけど、痛くないからね」
山下さんがまるで子どもに注射をする医者のような口調で、優しく話しかけてきた。
記憶を消す?
それは、つまり彼らのことをすべてを忘れてしまうということだろうか?
「ごめんね。もう、ここにはいられないんだよ」
寂しげな山下さんの声が聞こえて、顔を上げた。
「Farewellだね。さよなら、プロデューサーちゃん。ido1楽しかったよ……」
舞田さん、そんな顔をしないでほしい。
「今までありがとう、プロデューサー」
硲さん、そんなことでお礼を言ってほしくない。
すると外に投げた宇宙船から人が降りてきた。賢君だ。
「僕は大丈夫です。今までお世話になりました」
ぼくは彼らの記憶をすべて失ってしまうのか……。
オーディションで落ちて悔しさを分かち合ったことも、ライブで成功した思い出も、一緒にずっと頑張ってきたことも……すべて……。
彼らとの思い出が走馬灯のように駆け巡り、ぼくの頬に一筋の涙が伝っていた。
嫌だ!
アイドルとしての君たちをまだ見ていたいんだ!!
全宇宙の若者たちのため、新しい可能性を探そう!
だから、ぼくも一緒に連れて行ってほしい!
ぼくはありったけの想いを彼らにぶつけていた。
「プロデューサー(ちゃん)……」
嬉しさがあふれるようなまぶしい彼らの笑顔を、ぼくは一生忘れることはないだろう……。
それから数年後……。
ぼくはとある銀河系の星にいた。
あの後、ぼくはS.E.M、賢君たちと宇宙へ飛び出し、
そして、彼らとともにアイドル事務所を立ち上げた。
表向きには銀河系アイドルプロデューサー、裏では宇宙人スパイという2つの顔で活動している。
ここは地球によく似ているせいか、ぼくは昔のことを夢で見ていたようだ。
「プロデューサーさん、お茶がはいりましたよ」
賢君が淹れてくれた宇宙緑茶は、やっぱり美味しい。
ぼくはお茶を啜りながら、宇宙船のメンテナンスをしていた。さて、これから営業回りだ。
いつかきっと、小さな星だけでなく、全宇宙で活躍できるようなアイドル兼スパイをプロデュースできるはず。
新天地でのぼくの挑戦はまだ始まったばかりだ!
終
ほの暗いその奥には、皿形の置物らしき物が見えた。
手を伸ばしてそれを取ろうとした瞬間、突然、ぼくの真横を何かが横切り、置物を掴むと窓の外へ投げてしまった。
「何か、あった? プロデューサーちゃん」
舞田さんの声が聞こえたが、ぼく自身、今、一体何が起きたのかわからない。
しかし、あの形には見覚えがあった。
あれは皿ではない。
ああ、そうだ。
この形は、確か昔読んだ超常現象の本に載っていた。
光を放ちながら飛ぶ、謎の飛行物体……。
そう……名前は……。
……UFO……。
「あーあ、ついに見つかっちゃったね」
ふいに、山下さんのいつもよりワントーン低い声が耳の近くで聞こえ、ぼくは言い知れない恐怖を感じた。
ベッドの下から視線をS.E.Mに向けてみる。
3人はアイドル衣装によく似た服に身を包んでいたが、よくみると頭から謎の触覚が出ている。
「正体がバレちゃったなら、もう仕方ないよね。……ワレワレハ、宇宙人スパイ……ナノダ……」
宇宙人スパイ……?
賢君がいなくなって大変な時に、舞田さんは何を言っているんだろう……。
縁日で売っているようなカチューシャをつけて。
声にビブラートつけて、まるでコントのように……。
だが、ぼくはその時、気がついた。
……舞田さんが、英語を使っていないことに!
「ワレワレハ、アル星ノ諜報機関ノ仕事デ、地球ヲ監視シテイルノダ」
「君タチ地球人ニトッテハ、侵略者ッテコトダネェ」
あああ、なぜか硲さんと山下さんも、なんか片言の喋り方になっている……。
いや、それよりも、硲さん、舞田さん、山下さんが、 宇宙人で侵略者? そしてスパイ?
信じられない現状にパニックになりながらも、頭の片隅でどこか冷静に行方不明になった賢君を心配していた。もしかしたら賢君は地球人サンプルとして、彼らに連行されたのかもしれない。
最悪の展開が頭から離れない
その様子を見ていた硲さんが、まるでぼくの考えていたことが聞こえたかのように話しかける。
「山村君は地球の情報を提供する諜報員。我々の仲間だ」
なんてことだ。
硲さん、舞田さん、山下さんだけでなく、賢君すら宇宙人でスパイだったなんて。
こんなひどい話はあるか。
ひどい冗談だ。
ひどくできの悪い冗談だ。
全身をどっと疲労感が襲った……。
ぼくは放心状態で、その場に座り込んでしまった。
彼らはいつの間にか取り出したメタリックカラーのギラギラした光線銃を、ぼくに向けて構えている。
「ちょっと記憶を消すけど、痛くないからね」
山下さんがまるで子どもに注射をする医者のような口調で、優しく話しかけてきた。
記憶を消す?
それは、つまり彼らのことをすべてを忘れてしまうということだろうか?
「ごめんね。もう、ここにはいられないんだよ」
寂しげな山下さんの声が聞こえて、顔を上げた。
「Farewellだね。さよなら、プロデューサーちゃん。ido1楽しかったよ……」
舞田さん、そんな顔をしないでほしい。
「今までありがとう、プロデューサー」
硲さん、そんなことでお礼を言ってほしくない。
すると外に投げた宇宙船から人が降りてきた。賢君だ。
「僕は大丈夫です。今までお世話になりました」
ぼくは彼らの記憶をすべて失ってしまうのか……。
オーディションで落ちて悔しさを分かち合ったことも、ライブで成功した思い出も、一緒にずっと頑張ってきたことも……すべて……。
彼らとの思い出が走馬灯のように駆け巡り、ぼくの頬に一筋の涙が伝っていた。
嫌だ!
アイドルとしての君たちをまだ見ていたいんだ!!
全宇宙の若者たちのため、新しい可能性を探そう!
だから、ぼくも一緒に連れて行ってほしい!
ぼくはありったけの想いを彼らにぶつけていた。
「プロデューサー(ちゃん)……」
嬉しさがあふれるようなまぶしい彼らの笑顔を、ぼくは一生忘れることはないだろう……。
それから数年後……。
ぼくはとある銀河系の星にいた。
あの後、ぼくはS.E.M、賢君たちと宇宙へ飛び出し、
そして、彼らとともにアイドル事務所を立ち上げた。
表向きには銀河系アイドルプロデューサー、裏では宇宙人スパイという2つの顔で活動している。
ここは地球によく似ているせいか、ぼくは昔のことを夢で見ていたようだ。
「プロデューサーさん、お茶がはいりましたよ」
賢君が淹れてくれた宇宙緑茶は、やっぱり美味しい。
ぼくはお茶を啜りながら、宇宙船のメンテナンスをしていた。さて、これから営業回りだ。
いつかきっと、小さな星だけでなく、全宇宙で活躍できるようなアイドル兼スパイをプロデュースできるはず。
新天地でのぼくの挑戦はまだ始まったばかりだ!
終